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ドイツとアメリカ

ドイツとアメリカ_d0020127_12283616.jpg昨夜シカゴにヤンソン指揮バイエルン交響楽団が来たので、シンフォニーホールに聞きに出かけました。ヤンソンの得意なショスターコビッチとシベリウスです。ホールは大学から1ブロック、開演30分前に行けば安い券が手に入ります。メインホールのかなり良い席が何と20ドル。三田の幻の門から出て交差点を渡ったあたりにホールがあると考えればいいのです。60年代末期のあのあたりはマージャン屋ばかりでした。日米の大学環境の差には大きいものがあります。

さて、今回の話はドイツとアメリカの差です。日頃聞くシカゴ響の団員は皆かなりリラックスした感じで、自由に演奏しています。ハイティンクや以前指揮していたショルティは、各団員の個性を生かしつつ全体をまとめている感じがします。それに比べると、ヤンソンのドイツの楽団はまさに一糸乱れぬ、完璧なまとまりです。第1バイオリンもチェロもそれぞれ集団で波のように同じ方向に揺れながら演奏します。私も前の席の人も音楽に合わせて太った体を揺らせていました。

ところで、シカゴ響では団員にかなり技量の差があるように見られます。他の職業に比べ楽団員は所得が低いのか、ほとんどの団員が外国人のようで、特にバイオリンは中国や韓国の女性が目立ちます(第1バイオリンは台湾人、第2バイオリンも中国人)。年齢もかなり若い人が多いようです。バイエルンは一人アジア人がチェロを弾いていますが、あとは全てドイツ人のようです。女性の比率は少なく、個人の技量にはそれほど差がない感じです。年齢も中年の人が中心です。

もう一つのドイツとアメリカの経験をご紹介しましょう。先週金曜日昼飯時、わがビジネススクール金融学科では独ジーメンス社のM&A部門ヘッドを招いて勉強会が開かれました。出席した金融学科の教授10人ばかりはいずれも企業金融や投資理論、企業の価値評価を教えています。彼らの質問は、ジーメンスが内外の企業を買収するときに、どのような企業評価を行い、どのような意思決定で買収するか、また不採算部門を処分するときにどのような企業評価の基準を用いるかに集中します。

我々日本人としては、M&Aに伴い関係企業とハウスバンクとの銀行取引、株式持合い関係はどうなるのだろうか、従業員代表のM&A意思決定へのかかわりはどうか、不採算部門処理に伴い従業員は簡単に首が切れるのだろうか、といった疑問がすぐに浮かぶのですが、アメリカ人教授からはそのような疑問は一切出てきません。株式市場の評価がM&Aの意思決定の全てであるということが、研究者の思考の大前提になっているからです。

次に、話が中国での買収案件に移ると、ジーメンスのM&Aヘッドはこのところ60件近くの様々な買収をやっているが、利益が出るまでには平均で5年くらいかかっていると話します。すると米国人教授からは、なぜすぐに利益の出る買収を行わないのか。会計制度の不備などで買収時に企業評価が出来ないのかとの質問が出ます。

それに対して、中国でのビジネスは昔からの取引関係があり、ファイナンス面の評価は会計上の数字には頼らずキャッシュフローや機材の価値を自ら見るが、意思決定に当たってはファイナンス面よりオペレーション面(現場の意見)が重視されることがあると説明します。

すると、米人教授陣は実務経験がなくファイナンスの研究をしている人が中心なので、このオペレーションという意味がよく分かりません。中国では他にも法制面などいろいろなリスクがあるので、ファイナンス面でかなり保守的な評価をして決定するというのがこのような国での買収の基本ではないのかという質問に飛びます。いや、現場が昔から部品取引があったりして知っているから、とジーメンス側が言っても、アメリカ人にはファイナンス面の評価より現場の意見を重視するM&Aがほとんど理解が出来ないのです。

このような議論を横で聞いていると、アメリカいう国は何と特殊な国なのだろうかと思わざるを得ません。彼らから見れば、日本やドイツのようにM&Aをやるのに現場の意見をファイナンス上の判断より重視することがあるのが、そもそも理解できないのです。株式価値をあげるためにM&Aをやり、M&Aをやって企業価値が上がらなければすぐに買った部門を売却したり閉鎖したりします。

従って、それに合うように、経営者市場、投資銀行家などのプロフェッショナル助言者や会計、ITシステムなどのインフラが出来上がっています。そのようなことを皆が前提とするようにMBA教育が行われているのです。これがアメリカの経営です。全ては市場価値で評価され、その仕組みを完璧にするために様々な規制やルール、それを監視する膨大な組織、皆がその方向に動くようなガバナンスやインセンティブの仕組みが作られています。

そのように考えると、流動的な経営者市場を含めた労働者市場、発達したプロフェッショナル、アウトソース市場、エージェンシー理論をそのまま適用した経営者監視やインセンティブの仕組み、なるべく細切れに独立事業部門化しそれぞれ分権化して経営する企業組織、忠誠心の少なくなった従業員をまとめるための強いリーダーシップや組織文化、発達したMBAやエクゼクティブ教育など、アメリカの経営の基本原理を理解するのは非常に簡単です。アメリカのビジネス周期は不安定だが、ボトムを打つのも早く、すぐに回復軌道に乗るのがよく分かることになります。

アメリカは特殊な国ではなかろうかという日頃からの思いは、ドイツとアメリカの交響楽団の相違や、両国の研究者達のすれ違う議論を見ていると、非常にはっきりして来るのです。
by masakuhara | 2006-11-08 14:19 | アメリカ型資本主義
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